PCB(ポリ塩化ビフェニル)含有塗膜調査の様子

PCB含有の可能性のある電気設備

PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、ダイオキシンの一種で無色透明、通常の油の様な外観をしています。

化学的に安定しており、酸やアルカリと接触しても変化せず、耐熱性や電気を通さない絶縁性、非水溶性などの
優れた性質があり、かつては「夢の化学物質」と呼ばれました。

これらの性質により、PCBは火災の危険の多い場所で使用されました。

発電所、地下鉄車両、船舶、鉱山、地下施設(トンネルや地下室)などで、電気設備(変圧器やコンデンサーなど)に利用されました。
その結果、病院や地下施設、トンネル、船などでの火災件数が少なくなりました。

しかし、PCBは便利な物質である一方、現在は新たな製造・輸入・使用が禁止されています。

それは、1968年10月(昭和43年)に発生したカネミ油症事件で、その毒性が社会問題化し、
1972年(昭和47年)に通商産業省(当時)から、禁止するように通達が出されたからです。

<カネミ油症事件>
カネミ倉庫(北九州市)製の食用米ぬか油「カネミライスオイル」に、PCBが混入したことで始まった。
当時、カネミ倉庫は油の脱臭工程に、加熱したPCBを循環させていたが、そのパイプに穴が空き、油にPCBが漏出した。
その結果、加熱によってPCBは強毒性のダイオキシン類に変化し、食用米ぬか油を食べた人達に健康被害をもたらした。
被害者は西日本を中心に広範囲に広がり、認定患者は死亡者数を含む累計で、2,318人(厚生労働省 発表 <2017年12月31日 現在>)
となり、国内最大規模の食品公害事件となった。

<毒性症状>
吹出物、色素沈着、目やになどの皮膚症状や、全身倦怠感、しびれ感、食欲不振 など


このように一時期もてはやされたPCBは、日本では1954年(昭和29年)から生産が開始され、禁止となった1972年(昭和47年)までの18年間に、
約5.4万トンが全国で生産・使用されました。

その多くは回収されましたが、PCBが密閉された状態の電気設備は、継続使用が禁止されなかったことや、PCBが含有しているかどうか
不明な設備は放置された為、現在も処理されずに使用されている製品があります。

この内、公共の場に意図せず残る、PCB含有塗料についてご案内します。

層状になったPCB含有塗膜

PCBの使用が許可されていた頃、PCBは電気設備のみでなく、一部の塗料にも可塑剤(ある材料に柔軟性を与えたり、加工をしやすくするために添加する物質のこと)として添加されていました。
それらのPCBを添加した塗料は、PCB含有塗料と呼ばれ、以下の特徴があります。

【PCB含有塗料の特徴】
・製造業者を問わず、全て塩化ゴム系塗料 ※PCBは塩化ゴム樹脂に良く溶け、相性がよい
・製造期間:1966年(昭和41年)~1972年(昭和47年)1月
・使用期間:1966年(昭和41年)~1974年(昭和49年)6月10日
・使用箇所:施設の外面や屋外に設置されるものに使用されていた。
・PCB含有率:1~10%(10,000mg/kg~100,000mg/kg) ※塗料の混合状況や、現地での施工状況によるので理論値です。

<使用期間について>
1974年(昭和49年)6月10日に、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令 が施行され、PCB含有塗料の使用等が正式に中止されました。

【PCB含有塗料】

会社名 商品名
関西ペイント㈱ ラバマリンプライマ、ラバマリン中塗、ラバマリン上塗
中国塗料㈱ 「ラバックス」シリーズ
日本ペイント㈱ ハイラバーE
東亜ペイント
※現㈱トウペ
SRハイコート、SRマリンA

※現在でも上記に類似した商品名で販売している会社はありますが、PCBを添加製造していた期間は、
「1966年(昭和41年)~1972年(昭和47年)1月」のみとなり、1972年2月以降に製造された塗料には、PCBは添加されていません。

【PCB含有塗料が使用された施設
・鋼製橋梁
・洞門
・排水機場の鋼構造物

※洞門・・・雪崩や落石、土砂崩れから道路や線路を守る為に作られた、トンネルに似た形状の防護用建造物。

【PCB含有塗料が使用された可能性のある施設】
塩化ゴム系塗料の使用が規定された仕様書等(鋼道路橋塗装便覧水門鉄管技術基準)から、
以下の施設でPCB含有塗料が使用された可能性があります。

・鋼製タンク(石油貯蔵タンク・ガス貯蔵タンク)
・水門、鉄管の鋼構造物
・船舶

(仕様書)
何かを作る際に、どのような材料や工程で作るべきか示したもので、特に公共工事では厳格に規定され、仕様書に則り作業を進めます。
事前に発注者(役所)と協議して、材料などを変更するのは場合によりOKですが、勝手に変更した場合は契約不履行となり、発注者の検査に合格しません。
この場合、減額か工事のやり直しを求められます。

<鋼道路橋塗装便覧 1971年(昭和46年) 社団法人 日本道路協会 発行>
海岸地域のような比較的腐食性の大きい環境に、塩化ゴム系塗料が適用されるべき、との記載あり。
鋼道路橋の標準塗装系の一つとされている。

<水門鉄管技術基準 1973年(昭和48年) 社団法人 水門鉄管協会 発行>
水門扉については海岸地域、工業都市、田園・山間において、塩化ゴム系塗料による塗装が望ましい、との記載あり。
特に海岸地域については、より推奨されている。


2001年(平成13年)7月に施行された、 PCB特別措置法(正式名:ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法)に基づき、
PCB廃棄物の保管・使用中の事業者は、環境汚染を低減させる為に、処分期間内の処分等が義務付けられました。

そのPCB廃棄物の内、PCB含有塗料は全国の様々な施設の建設時や更新時に塗装され、PCB含有塗膜として現在でも排水機場などの施設中に残存しているものがあります。
そこで、施設中にPCBが含まれるかどうか確認する為に、PCB含有塗膜調査が必要となりました。

 

PCB含有塗膜調査(樋門)

PCB含有塗膜調査(フラップゲート)

ユーエルアクアティクス㈱では、河川関連の業務が多いので、このような樋門や排水機場でのPCB含有塗膜調査を実施しています。

樋門や排水機場はコンクリートや鋼材で構成され、河川から用水を取水したり、排水路の水を河川へ排水する為に、堤防を横断して作られる暗渠施設です。
そこにはステンレス製ゲート(扉体)が設置されており、錆の発生を防止して寿命を延ばす為に、PCB含有塗料が塗装された時期があったのです。

↓樋門の詳細情報はこちらから

水門・樋門調査(目視点検)の様子

【PCB含有塗膜調査とは】
施設に塗装された塗膜を現地にて少量採取(サンプリング)し、分析室でそのPCB濃度を分析することを言います。
そのPCB濃度の結果により、現地にて塗膜の全量剥離などの工事を実施し、適切に処分して、害のない塗料で塗り替えます。

【PCB含有塗膜調査の対象】
1966年(昭和41年)から1974年(昭和49年)の期間に、建設又は塗装の塗り替えが行われた、以下の鋼製構造物が対象になります。

<鋼製構造物(屋外に設置されているもので、屋内や地下に設置されたものは除く)>
・橋梁(道路橋、鉄道橋)
・洞門
・排水機場・ダム・水門
・タンク(石油、ガス貯蔵タンク)
・船舶

【PCB含有塗膜の区分と処分方法】

種別 PCB濃度 処分方法 処理施設
高濃度PCB廃棄物 100,000mg以上/kg 化学的に分解 JESCO
低濃度PCB廃棄物 0.5~100,000mg/kg 焼却処理など 国の認定処理施設
非PCB 0.5mg以下/kg 焼却処理など PCB廃棄物に該当しない為、通常の産業廃棄物として処理

※JESCO・・・中間貯蔵・環境安全事業株式会社
※100,000mg=100g

【PCB含有塗膜の処理責任者】
PCB特別措置法
に基づき、PCB含有塗膜を有する施設は、保有及び管理する所有事業者が廃棄をし、適正に処理する必要があります。
即ち、一般的に橋梁や排水機場、樋門などは公共(都道府県など)が設置したものですので、公共が主体となって処理する必要があり、
PCB含有塗膜除去工事などの元請業者にその義務を課すべきではない、とされています。

【PCB含有塗膜の処分期限】
日本の地域に応じて処分期限が異なります。

以下は、大阪の場合になります。

種別 期限 備考
高濃度PCB廃棄物 2021年3月末 現在では期限を超過しており、PCB廃棄物が発見された場合は、至急大阪府まで連絡する必要あり。
低濃度PCB廃棄物 2027年3月末 適正な保管と処分期限までの処理が必要。罰則あり。

PCB含有塗膜調査の流れ

PCB含有塗膜調査を実施する際には、机上調査、現地調査の際に注意すべきことが数多くあります。
以下にその流れをご案内します。

①調査施設の選定
施設台帳などの資料を机上で精査し、PCB塗料が使用された可能性のある 1966年(昭和41年)~1974年(昭和49年)に、建設又は塗装の塗り替えが行われた鋼製構造物を抽出します。
約50年以上前の構造物ですので、満足に資料が残っていないことも多く、施設がいつ建設されて塗装の塗り替えがあったのかなかったのか、不明な施設が多数存在します。
特に塗装の塗り替え履歴が、台帳に記されていないことがありますので、どのように調査を進めるか発注者(役所など)と協議が必要です。
1975年(昭和50年)以降に、塗装の完全塗り替えを実施した施設であると判明した場合は、塗膜にPCBを含有しませんので現地調査をしません。

②塗膜採取箇所の選定

PCB含有塗膜調査(採取箇所の選定) 塗膜の剥離点在

採取箇所は、環境省からの通知書(ポリ塩化ビフェニルを含有する可能性のある塗膜のサンプリング方法について 令和元年10月11日)通りに実施します。
通知書には「塗装の劣化などが比較的少なく、かつ直射日光や水掛かりの影響を受けにくい場所を、サンプリング場所として選定します。
その際、現況の塗膜厚が周辺よりも薄くなっている部位からのサンプリングは避けます。」と記載されています。

直射日光や水掛かりの影響を受ける箇所や端部は、塗膜が剥がれていたり、まだらに錆が発生している場合がありますので、その箇所を避けて塗膜が十分に残っている箇所から塗膜を採取します。

③塗膜の現地採取

PCB含有塗膜調査(安全対策状況)

有害物質であるPCBは、体内に吸引したり環境中に放出しないようにする必要があります。
そこで塗膜のサンプリング作業時には、作業員は防護シールドや防毒・防塵マスク、手袋などを着用して作業します。
更に塗膜のサンプリング部位をビニールシートなどで完全に覆い、周辺環境と隔離してからサンプリング作業を実施することで、環境汚染を防止します。

PCB含有塗膜調査(採取箇所の選定) 塗膜の残存箇所

塗膜が十分に残存している箇所を選定し、縦横30cm程度の枠線を鉛筆などで記入します。
表面に汚れが付着していることが多いので、濡れ雑巾などで塗膜表面を綺麗にして、剥離作業の準備をします。

PCB含有塗膜調査(上塗り塗膜の剥離)

ケレン棒やスクレーパー等の工具や剥離剤を用いて、鋼材の素地が露出するまで塗膜を剥ぎ取ります。
塗装は何層にも分かれて施工されており、どの層にPCBが含有されているか不明な為です。

塗膜は、素地→下塗部→上塗部 の順に塗装されています。
ですので塗膜の剥離の際には、まずは比較的柔らかい上塗り塗膜(上の写真では水色の層)から剥ぎ取ります。

PCB含有塗膜調査(下塗り塗膜の剥離)

上塗り塗膜を剥ぎ取ると、下塗り塗膜(上の写真では茶色の層)が現れます。
これが素地に頑丈に付着しており、なかなか剥ぎ取るのが難しいのです。
工具や、剥ぎ取る方向や角度などを変え、素地までの剥離を目指します。

PCB含有塗膜調査(素地の露出)

塗膜の剥離を慎重に進めると、ようやく素地まで到達し、鋼材の表面が見えてきました。

PCB含有塗膜調査(塗膜片のサンプル)

採取した塗膜片を集めて、清潔なガラス瓶に入れ、施設名を記入します。
PCB含有量の室内分析の為に、およそ50gのサンプルが必要です。
写真では上塗り塗膜、下塗り塗膜が混合されており、しっかりと剥離作業ができたことが分かります。

PCB含有塗膜調査(サンプリング後の補修)

塗膜の剥離後には、防錆塗料により補修します。

④PCB塗膜片の運搬
大事に採取したサンプル(塗膜片)をPCB分析室へ運搬します。この場合は、廃棄物処理法PCB特別措置法の適用外となり、
役所などへの届出は不要です。また分析後に余った試料などがある場合は、役所などの発注者がPCB廃棄物として保管します。

⑤PCB含有量分析
PCB含有量を正しく分析できる機関で、室内分析を実施します。
そこで計量証明書を発行します。

PCB含有塗膜調査(計量証明書)

 

PCB含有塗膜調査(分析結果例)

この場合、25mg/kgのPCBが塗膜中に検出されましたので、低濃度PCB廃棄物となります。

⑥PCB含有塗膜調査結果報告書の作成
報告書は、1地点ごとのカルテ形式にまとめます(ユーエルアクアティクスの場合)。
PCB濃度や現地状況、現況写真をまとめることで、分かりやすい資料になります。

PCB含有塗膜調査(調査結果報告書)

これらの結果から、発注者(役所など)は以後の全量塗装塗り替え工事計画などを立案して、環境に対して害のないようにしていきます。

当時は画期的で、夢の化学物質と言われたPCB。
今はそれが間違いだと分かりました。
それを認めて、修正していくのも人間の責務かと思います。