この記事では、水産資源生物生態調査で基礎となる生息状況調査の内、実際に現地で漁業を行う漁獲調査をご紹介します。
漁獲調査は、見て確認するだけの目視調査と違い、採取した水産生物(魚や貝など)を手に取って調査できるので、
全長や重量の測定や、解剖して胃の中身を取り出して、何をどの程度食べていたかの分析結果などから、
どのような環境で水産生物が生息し、成長しているかを調査することを目的としています。
漁獲調査には、様々な手法があります。
①漁師さんが、漁で獲ってきた水産生物を譲って頂く(もしくは、買い取る)方法
②漁師さんの漁船に同乗させて頂き、調査員と一緒に漁に行く方法
③調査員が独自で水産生物を捕獲する方法
今回は、②の漁師さんと一緒に漁を行う手法について、ご案内します。
↓③の内、貝類を捕獲する方法はこちら
漁獲調査では、以下の様に準備や調査を進めます。
【計画時】
・調査結果の偏りを防ぎ、かつ比較検討する為に、漁獲する箇所を複数定め、総実施回数を設定する。
・管轄の漁協へ問い合わせたりヒアリングをし、調査全般の協力(技術協力、漁獲物の作業・保管場所、サンプルの廃棄方法相談)を仰ぐ。
・網を引いたり、設置する延長や漁法を、地元漁業の実態に合わせ定める。
・留網時間(網を水中に投入する時間)を定め、敷設開始時刻を地元の漁業実態に合わせ設定する。
【現地調査】
・調査の目的に合った網や漁法(指標種などの魚種が獲れるもの)を使って、漁をする。
・総実施回数に合わせ、季節毎(春、夏、秋、冬にそれぞれ1回など)に漁をする。
※比較検討するために、毎回、同じ手法や時間で調査をすることが重要です。
【漁獲物の状態確認】 ※測定・分析・考察
・漁獲物を1尾毎に体長、体重の測定をする。
・漁獲物を1尾毎にさばき、胃の状態(内容物の種類・数量、消化程度)を分析する。 ※胃の内容物分析 と呼ぶ
・漁獲物について、種類、体長、体重の組成、季節別の変動を考察する。
・漁獲物毎に飼料となった生物の種類、体長などの組成や、他の調査で得られた飼料生物との関連を考察する。
基本的には、調査員が調査する箇所をGPS受信機(携帯型や船舶用)にて漁師さんに案内し、そこからの漁は漁師さんが実施します。
この現場では、刺し網を昼頃に投入し、次の日の8時頃に回収しました(留網時間:20時間)。
ローラーで網を巻き上げる際には、指や手を巻き込まれないように注意し、カジカ類などを大量に漁獲することが出来ました。
本来なら漁獲後の網に絡まった魚を、調査員や漁師さんで外す予定でしたが、この現場では大漁すぎて、港に帰って作業することにしました。
大漁だと、その後の調査もやりがいがあって、調査員も漁師さんも嬉しいですね。
※日本全国でこのような調査をしていると、たまに危険生物(アカエイ、シュモクザメ など)が上がって来る事があります。
この場合は、調査員と漁師さんが一致団結し、尻尾を切って海に戻したりして対応します。
魚礁の真上など、網での作業が難しい場所では、釣り調査を行う場合もあります。
この現場では、1箇所に付き2時間の制限で、規定数量を釣り上げなければなりませんでした。
全長60cm、体重3.0kgのマダラ。
餌は、イカの切り身を使用しました。
水深が50m以上ありましたので、引き上げまでに15分程度かかり、腕が疲れて大変でした。
通常の釣りでは、釣れなくとも「仕方ない、残念だった」で済みますが、調査の釣りではサンプルが絶対に必要なので、そう言ってられません。
最悪では魚が釣れるまで延長戦になり、調査員にとってかなりのプレッシャーになります。
写真は、調査員に記念に感想を尋ねた際のもの(当ブログ用)ですが、まだまだ釣らないといけないので笑う余裕がありませんでした。
釣りの仕掛けや餌の情報は、近くの釣具屋さんによく聞いて購入し、漁師さんからアドバイスを貰いながら釣りをしました。
仕事で船釣りが出来て良いね! とよく言われるのですが、裏ではこのような苦労をしています。
網や釣り調査で漁獲した、種々の魚を新鮮な内に、種名、体長、体重を計測し、野帳に記録していきます。
次に漁獲生物の腹をさばき、胃を取り出し、生殖腺(精巣や卵巣)から、オスかメスかを調べることもあります。
取り出した胃は、ホルマリンで処理した後に分析室に持ち込み、胃の状態(内容物の種類・数量、消化程度)を室内で分析します。
その際には、釣り調査で使用した餌が何なのかを、情報として共有することが大事です。
それは、胃の中にあるものが、調査海域で食べてきた餌なのか、釣り調査で使用した餌なのかを判別する為です。
これらは、胃内容物の消化程度で分かります。
釣り餌は食べたばかりなので、ほとんど消化しておらず、その他のどろっとしたものなどと区別が付くからです。
残念ながら、調査を終えた魚達は売り物にならないので、廃棄処分となります。
この現場では、漁師さんと相談して、魚をミンチにして養殖魚の餌にしました。
これらの調査結果や、水質調査、底質調査や飼料環境調査などの関連を考察することで、調査海域の特性や、
投入した魚礁の効果などを測定できるようになります。
※一般的には、魚礁の周囲は色々な生物が住みつきやすいので、水産生物の種類や量は増加します。
このように、漁獲調査の場合は、調査員の現場や分析の技術はさることながら、
地元のご協力あってのものなので、地元漁協や漁師さんとのコミュニケーションが一番大事です。
いつもお付き合いさせて頂いている、漁協さん、漁師さん、ありがとうございます!
このような海の仕事が、水産業の一部を支えています。