水門や樋門は、我々を水害から守ってくれていますが、年々老朽化します。
この対処方法は、大きく2つあります。
①施設が壊れるまで使用して、壊れ次第に全てを取り替える。 ⇒ スクラップアンドビルド
②施設の壊れ方によりそれぞれ優先順位をつけ、適宜補修して延命する。 ⇒ 長寿命化
インフラ整備に当てられる予算は限られており、②の施設の長寿命化が、現在日本各地で主流となっています。
こちらの方が調査費用が別途かかりますが、総合的に見ると毎年かかる費用を平均化し、安くできるからです。
※国土交通省では、トータルコストの縮減・平準化と呼んでいます。
①のスクラップアンドビルドの場合だと、施設を撤去更新する際に巨額の費用が必要になりますので、
当年の予算を大きく越えてしまい、更新予定だったのに更新できないという恐れが出てきます。
ですので、予算に見合った維持管理が出来る様に、国や地方公共団体は日夜苦慮しています。
国民の安全を最優先に考えつつも、予算に収まるようにしないといけないからです。
そして、その国民の安全を守る維持管理の手法の一つに、補修設計があります。
ここでは、補修設計方法を立案する為の、現地調査の例をご案内します。
特に古い施設であればあるほど、施設の情報が不足していますので、
補修の前に現況を確認する必要があるのです。
一般的な現地調査の内容は、以下のようになります。
(標準)
①近接目視調査
水門・樋門全体にわたり、ひび割れ、浮き、剥離・剥落・欠損、漏水、遊離石灰、錆汁、腐食、ボルトの脱落等の
損傷を把握し、その要因を検討する。
※要因の例
基部の地盤沈下、寒暖差、経年劣化、地震などの外力、振動、海からの塩分飛来、劣悪なコンクリート材料、劣悪な施工 など
(詳細)
②配筋調査
はつり調査、コンクリートコア採取時の参考として、RCレーダー(鉄筋探査機)により配筋箇所や間隔を確認する。
③はつり調査
鉄筋の腐食度や、鉄筋の径・間隔を確認する為に、ハンマードリルによりコンクリート表面をはつって鉄筋を剥き出しにする。
④コンクリートコア採取
コンクリートコア(試験体)を採取して、圧縮強度試験、中性化試験、塩分含有量試験を実施する。
⑤シュミットハンマー試験
シュミットハンマーを打撃することにより得た反発度から、コンクリートの圧縮強度を推定する。
⑥機械・電気設備点検
機械の作動状況、給油状態、清掃状態、腐食状況などを確認する。
↓近接目視調査の詳細はこちら
はつり調査やコンクリートコア採取を実施する前に、コンクリートに入っている鉄筋の位置を調べる為に、
RCレーダー(鉄筋探査機)を用いて調査します。
はつり調査は鉄筋が入っている箇所周辺で、コンクリートコア採取は、鉄筋が入っていない箇所で調査を実施します。
鉄筋の配置(配筋)は、設計時に作成された配筋図から確認出来る場合もありますが、古い施設になればなるほど、
昔のデータは残されていませんし、現実には図面通りになっていないこともあります。
ですので、現実の鉄筋の配置状況を調べることで、後の作業を実施することによるコンクリート構造部への負担を
出来るだけ低減する為に、配筋調査が必要です。
鉄筋周囲のコンクリート表面をハンマードリルではつって、鉄筋を剥き出しにし、鉄筋の腐食度や、鉄筋の径・間隔を確認します。
鉄筋背後まではつらないと、正しい鉄筋径の測定ができないので、注意が必要です。
鉄筋の右から左から、上から下からドドドドドと掘っていきます。
もちろん、ドリルの刃先を鉄筋に当てないように注意して作業します。
硬い(密実な)コンクリートだと、なかなか掘れないので結構しんどいです。
鉄筋の間隔も計測するので、鉄筋を縦に2本、横に2本、露出させる必要があります。
ノギスで鉄筋径を計測します。
メモリを読み間違わないように注意が必要です。
この場合だと、約9mmですね。
鉄筋の腐食グレードの分類では、「黒皮の状態、またはさびは生じているが全体に薄い緻密なさびであり、コンクリート面にさびが付着していることはない。」
となるグレードⅠ であると判断できます。
※出典:2013制定 コンクリート標準示方書(維持管理編)P147土木学会
鉄筋の情報と共に、周囲のコンクリートがどれだけ中性化しているか、現地にて簡便に計測する場合もあります。
この写真は、フェノールフタレイン試薬を、はつり箇所に直接噴霧した際の状況です。
施工直後のコンクリートは、pHが12~13の強アルカリ性です。
それが、コンクリート表面から大気中の二酸化炭素が徐々に入り込むことにより、長い年月をかけてコンクリートが
表面から中性化(pH8.5~10)していきます。
そこで、フェノールフタレイン試薬は、pH10~13までのアルカリ性を感じると、赤紫色に変色する性質があるのを利用して、
中性化の範囲を目視確認出来ます。
この場合は、見渡す限り赤紫色になっているので、鉄筋の背後までアルカリ性であり中性化していないことが分かります。
シュミットハンマーを打撃することにより得られた反発度から、換算式を使用してコンクリートの圧縮強度を推定します。
換算が楽になるので、晴天が続いてコンクリート表面が乾き、コンクリートに対して90度で打撃するのが理想です。
打撃するたびに、バンと言う打撃音がします。
打撃面は、磨耗していない平滑面を選択すると精度が上がります。
場合により、作業面をグラインダーで平滑にする作業が必要です。
痛いので、手に当てて実験するのは止めた方が良いです。
円筒型のコンクリートコア(試験体)を採取して、圧縮強度試験、中性化試験、塩分含有量試験を実施します。
内陸部の水門では、飛来塩分がないので、塩分含有量試験を実施しないこともあります。
採取したコンクリートコア(試験体)は丈夫ですが、欠けたりさせないように、大事に布などでくるんで
分析室に持ち帰って分析します。
↓コンクリート分析の詳細はこちら
機械の作動状況、給油状態、清掃状態、腐食状況などを実際に作動させて確認します。
異音がしないか、スムーズに水門(ゲート)が閉まるかなど、全体を良く見て点検します。
これらの現地で取得したデータをまとめ、現地条件と経済性を比較した上で補修工法を選定し、詳細設計を実施します。
そこでは、補修設計のプロが机上で考案していきます。
特に古い施設は、施工当初のデータが残っておらず、調査項目がどんどん増える傾向があります。
我々の生活を守ってくれている施設ですので、大事に使っていきたいですね。