【砂防設備】
この記事では、4つの砂防関係施設の内、砂防のメインとなる砂防堰堤を含む、砂防設備(砂防施設)の種類や、砂防関係施設点検や治山施設点検などの点検方法について、ご案内します。
施設区分 | 求められる機能 | 必要な性能 |
砂防堰堤 (床固工、前庭保護工含む) |
土砂生産抑制機能 土砂流送制御機能 土石流・流木発生抑制機能 土石流・流木捕捉機能 土石流堆積機能 土石流流向制御機能 等 |
砂防設備の安定性、強度など 構造上の性能 |
渓流保全工 | 土石流・流木発生抑制(渓流)機能 渓流・河川における土砂流送制御機能 |
|
山腹工 法面保護工 |
土砂生産抑制機能 | |
管理用道路 | 砂防設備に至る道路の安全を確保する機能 | 車両が安全に通行できるための路盤等の強度を保持していること |
【砂防堰堤の数】
現在60,000基以上あります。
明治以降に整備され、耐用年数となる竣工後30年~50年以上、経過しているものが数多く現存しています。
【砂防堰堤の種類】
砂防堰堤には、大きく2種類あります。
透過型構造、不透過型構造 になります。
砂防堰堤の種類 | 特徴 | 長所 | 短所 |
不透過型 | 堰堤の上流側に土砂を貯め、土砂が満杯になった後でも、洪水時に一時的に土砂を貯められる。 その後、川の流れによって自然に土砂が川に流下することで、繰り返し機能を発揮する。 |
・土砂が満杯になった後も繰り返し機能を発揮する。 ・基本的に堰堤にたまった土砂は除去しないので、透過型に比べ、維持管理費が少ない。 |
・堆砂に時間がかかり、堆砂中は下流に土砂を流せない。 ・透過型に比べ、計画捕捉流木量が少ない。 (洪水時に流木を受け止められる量が少ない) ・魚などの生物が上下流に移動できない。 |
透過型 | 平常時は水や細かい土砂は流下し、魚などの生物が上下流を移動できる。洪水時には一気に流下する土砂や流木を受け止められる。 | ・堆砂時間が不要で、建設後すぐに機能を発揮できる。 ・不透過型に比べ、計画捕捉流木量が圧倒的に多い。 (洪水時に多く流木を受け止められる) ・平常時に、水や細かい土砂は流すので、土砂が貯まりづらい。 ・魚などの生物が上下流に移動できる。 |
・堰堤にたまった岩や土砂・流木を除去する必要がある為、維持管理費が不透過型より高い。 |
(砂防ダムと砂防堰堤の違い?)
砂防堰堤などと難しい用語を使わず、砂防ダムと呼んだらいいんじゃない? と言われます。
厳格な定義ではなく、例外もありますが、その高さで名称が区分されています。
砂防ダム…高さ7m以上
砂防堰堤…高さ7m未満
【砂防堰堤の役割】
砂防堰堤は、山間部などの川や、渓流の上流に作られます。
山の土砂が水と混ざって、一気に流出する土石流や、山地からの流出土砂を砂防堰堤の上流側で貯めて、川の勾配を緩やかにし、下流側への土砂流出量を調節する役割があります。
この仕組みにより、一度に大量の土砂が下流に流出して、周囲を破壊する災害を軽減し、下流に住む人々の生活を守っています。
↓土石流の被害の様子はこちら
【砂防堰堤建設の是非】
砂防堰堤をどのような工法で建設しても短所があり、批判を受けることがあります。
砂防堰堤設計者は、種々の試験結果や調査結果から改善を進めていますが、残念ながらどこかで歪みは生じてしまいます。
砂防堰堤建設の背景には、地元住民の建設要望によるものが多いのですが、環境に対するダメージが大きいので、特に環境に配慮した設計が求められています。
砂防堰堤建設による主要な長所と短所は、以下の様になります。
(長所)
・防災や減災により、人命や国民の財産が守られる。
(短所)
・海岸浸食が進む
海岸線(陸地と海との境界付近)は、上流にある川からの土砂の供給により維持されていますが、砂防堰堤の建設が一因で土砂の供給量が少なくなり、
海に達する土砂が少なくなっています。
※全国で年間160ヘクタール(東京ドーム34個分)の、海岸付近の砂などが流出しています。
(2006年2月22日 国土交通省河川局海岸室の資料より)
・海に住む生物(魚介類など)への養分供給量が減る
砂防堰堤の建設が一因となり、森林が育んだ養分やミネラルがせき止められ、川から海へ流れる量が減少していると言われています。
↓磯焼けによる水中の様子はこちら
【調査の様子】
砂防堰堤にたどり着くと、コンクリート箇所のクラックや、欠損などの有無や大きさを測定します。
またコンクリートの隙間から漏水していないか調べたり、特に砂防堰堤の性能を落とす、コンクリート端部の洗掘状況なども調べます。
基本的には全て目で見て確認する、目視調査により調査を進めます。
(点検の方法)
点検はマニュアルに則り進められ、大きく2種類あります。
・砂防関係施設点検要領(案):国交省が定めるもの
・治山施設個別施設計画策定マニュアル:林野庁が定めるもの
これらのマニュアルを基本として、各都道府県が砂防施設を維持管理しやすいように、手を加えて運用します。
(点検の種類)
定期点検
目視点検を基本とする。
<国交省>
点検計画に基づき実施する。
<林野庁>
山地災害危険地区内及び人家、公共施設等に被害が発生した地区については、5 年に1 回の頻度で実施することを基本とする。
上記以外の地区については、10 年に 1 回の頻度で実施することを基本とする。
臨時点検(緊急点検)
<国交省・林野庁>
豪雨や地震等の災害発生後の各施設の変状を、把握する為に実施する、緊急的な点検。
目視点検を基本とする。
追加調査
<林野庁>
目視点検により施設の損傷、部材や材料の劣化が確認された場合に、施設の健全度や詳細調査の実施の是非を、判断するために実施する調査で、簡易な道具を用いて行う。
※簡易な道具:点検ハンマー、シュミットハンマー、ピロディンなど
詳細点検
<国交省>
定期点検や臨時点検において、その変状の状況を、より詳細に把握する必要があると判断される場合や、変状の原因把握が困難な場合に実施する点検。
(作業体制)
・陸上調査員×2名
調査員1…写真撮影や野帳の記入
調査員2…変状の箇所や大きさの確認、スタッフの保持
落ち葉などの堆積や、河道上の浮石などにより滑りやすい箇所などを、お互いに声を掛けながら進みます。
(必要物)
・スタッフ(5m)
・赤白ポール
・デジタルカメラ
・位置情報システム
※山の中を歩くと目印がなく、現在位置が分からなくなるので、補助システムが必要です。
(現地調査状況)砂防堰堤
砂防関係施設点検や治山施設点検の現地調査では、スタッフなどの計測機器の目盛りを見て分かるように写真を撮影し、携帯する調査野帳に変状の寸法や状態を記録します。
また、砂防堰堤は立体構造をしていますので、下流側に洗掘があった場合は、上流側の反対面に変状はないか、下流側の漏水であれば上流側のどこから来ているのか、などの3D的な視点を持たないと、調査漏れが発生し、変状の原因の特定が困難になります。
そこで、経験を積んだ熟練の調査員であるほど、仮説を立てながら点検調査を進めます。
「下流側のとある変状は、上流側のあちらに原因があるかもしれない」と考えて、倒木や崩壊地などが周辺にないか確認しながら、周囲を見渡しつつ歩くことにより、原因を突き止められることがあります。
(現地調査状況)渓流保全工・山腹工・法面保護工
砂防関係施設点検や治山施設点検では、砂防堰堤が特に目立ちますが、点検対象はそれだけではありません。
渓流保全工は、渓流の侵食や崩壊を防ぐ為に、床固工、帯工、護岸工、水制工、流路工などを築くものですが、点検内容は別記事の河川点検と変わりません。報告書の様式が主に変わるのみです。
↓河川点検の様子
山腹工は、豪雨や地震により崩壊した山の斜面を、コンクリート壁(土留工)などで保護して植生を回復させて、土砂が流出しないように安定させるものです。
法面保護工は、豪雨などにより山の斜面(法面)の浸食を防止する為のもので、植生工(植物を植える方法)と、構造物による法面保護工(コンクリートなど)の 2 種類に大別されます。
山腹工、法面保護工ともに、土圧がかかるので、変形や傾倒、クラックや漏水などの変状が発生しやすいので、留意が必要です。
(現地調査の注意点)
砂防堰堤は山間にある為、山道や林道、山岳、渓流を通って徒歩で向かいます。
その途中には、倒木やぬかるんだ地面、地滑りした地面、落ち葉などで滑りやすくなった箇所を踏破しないといけないので、よほど注意して歩かないといけません。
また場所により危険動物(熊など)がいますので、熊スプレーなどを携帯する必要があります。
このような危険があるので、外部と連絡が取れるように、調査には必ず最低2名体制!!
寸法を計測する為の赤白ポールやスタッフを、常時持ち歩きます。
ある程度若いか、健脚でないと難しい仕事です。
砂防堰堤への道のりを、先に机上でシミュレーションしておくことが、この業務の要になります。
土砂災害による被災状況をイメージできる方に向いています。
地元の方とお話しすると、ありがたく思われることもあり、やりがいがありますよ。