河川点検の様子(水中)

河川の水中目視点検の様子

水中で変状の目視点検中

水深が深く、川の中を歩けない場合、潜水士が水中に潜って、変状があるかどうかを点検します(潜水目視と言う)。

潜水士は、2人1組で作業します。
事故などがあった場合に、お互いにすぐに救助できるよう、2人体制が基本になります。
これを、バディシステムと呼んでいます。

映画で人気のあった海猿でも「大事なバディ」などと呼んでいましたが、上記のシステムのことになります。
ナイスバディのことではありません。

潜水士による水中目視点検(潜水目視)は、コストが陸上よりもかかる為、省かれる場合もあります。
とは言え、普段見えない箇所に大きな変状があったり、その兆候が見られたりしますので、予算との兼ね合いで実施するかどうかを、発注者(大阪府などの地方自治体や国交省など)が決めます。

陸上調査や船上調査の結果から、水中に変状があると思われる場合は、発注者に水中調査を提案する場合もあります。
発注者は既往の河川調査結果や、水害の発生箇所から、各河川の弱点を把握していますが、まだまだ体系的に把握されてない河川も多くあり、日本各地で調査を進めています。

【主な護岸形状】 ※水深の深い都市部、河口部
・コンクリート張り護岸
・矢板護岸

【潜水調査 作業体制】
・船外機船操船者×1名、船上調査員×1名、潜水士×2名

船外機船操船者
船外機船を操船し、潜水士に付かず離れず距離を保ち、周囲の安全を確認しながら調査を進めます。
特に河川では、自転車などの不法投棄物や、浅瀬(堆積河床)への接触による、船外機船へのダメージがあったり、ゴミ清掃船や浚渫船の往来による、船外機船や潜水士への衝突事故が懸念されますので、周囲の安全確認が特に重要です。

船上調査員
潜水士への調査機材の受け渡しや、水中変状箇所の野帳記入、水中変状箇所と、陸上・船上(水中に対し、気中と言う)調査で発見した、変状箇所との関連性の考察や、測線による位置管理などを行う、潜水調査の監督役です。

潜水士
水中に潜って、河川の護岸や河床に、変状があるかどうかを目視点検します。
水深に応じて、浅い箇所と深い箇所に分け、潜水士がそれぞれ1名ずつ、潜水目視する場合もあります。

【潜水調査必要物】
・船外機船(ゴムボート可)
胴長
・ライフジャケット
・潜水機材
・スタッフ(5m)
・ハンマー
・デジタルカメラ(陸上・水中用)
・位置情報システム


河川の水中目視(潜水目視)点検では、点検対象のコンクリート部や鋼材面に、懸濁物質が絡みついた藻や、カキやフジツボなどが付着し、変状が見えづらいことがあります。
よって、コンクリートなら目地部や角部の欠損、鋼材なら赤錆や穴など、部材毎に発生しやすく着目すべき変状を事前に把握し、以下に着目しながら調査を進めます。
※陸上・船上調査時に、気中部で大きな変状があった箇所は、特に念入りに水中確認をします。

【鋼材】 ※鋼矢板・鋼管矢板など
・穴空きの発生の有無、発生の箇所及び形状寸法
・赤橙色の錆のある箇所の有無・範囲
・付着物、塗覆装の状況
・船舶や漂流物の衝突の痕跡等の観察・記録

潜水目視点検 <鋼矢板の穴>

潜水目視点検 <鋼矢板の穴>

潜水目視点検 <鋼矢板の錆>

潜水目視点検 <鋼矢板の錆>

【コンクリート】
・欠損、鉄筋露出の有無、発生の箇所及び形状寸法
・船舶や漂流物の衝突の痕跡等の観察・記録

潜水目視点検 <護岸コンクリートの鉄筋露出>

潜水目視点検 <護岸コンクリートの鉄筋露出>

【河床】
・河床の堆積状況と寸法
・河床の洗掘状況と寸法

潜水目視点検 <河床の堆積状況>

潜水目視点検 <河床の堆積状況>

潜水目視点検 <河床堆積による陽極の埋没>

潜水目視点検 <河床の堆積による陽極の埋没>

護岸の水中部は、陸上にある道路や橋梁、堤防を支える足元にあたり、ここが崩壊すると全てが崩壊しますので、特に重要な箇所になります。
特に水中部の構造に穴が開いていると、護岸背後に詰められた、土砂や裏込石が流出することがあり、天端道路の沈下や陥没、堤防決壊などの、重大な事故や災害につながる可能性があります。

潜水調査により、それら変状の有無を確認し、補修をしていくことが重要です。


河川の水中目視(潜水目視)点検では、鋼材やコンクリートにおける変状箇所の目視確認ともに、陽極消耗量調査を実施することもあります。
河川の構造物に関わる陽極とは、鋼材(鋼矢板や鋼管矢板など)の外側に設置して、電気を流すことにより、鋼材の腐食を軽減防止する為のもので、マグネシウム合金などで出来たものになります。

この方式は、電気防食の内、流電陽極方式と呼ばれ、防食対象物よりもイオン化傾向の大きい金属を電線で接続し、電気化学的作用を利用して、鋼材の腐食を防ぎます。
防食対象物の腐食を防止する代わりに、その陽極が犠牲的に腐食することから、犠牲陽極方式とも言われています。

ですので、陽極は年を追う毎に、どんどんと小さくなりますので、その消耗程度を潜水目視や、付着物のケレン(清掃)をして、周囲を計測することで確認します。
その結果により、これから何年先まで、陽極を交換せずに維持できるのかを計算し、河川の維持管理計画に役立てます。

陽極消耗量調査 <ケレン前>

陽極消耗量調査 <ケレン前>

陽極消耗量調査 <ケレン後>

陽極消耗量調査 <ケレン後> ※ここまできれいにして、周囲の長さを計測します。

陽極消耗量調査 <全消耗> ※陽極が全て消耗され芯金が露出し、防食効果がなくなっています。


潜水目視点検 <警戒船の配備>

潜水目視点検 <警戒船の配備> ※手前:作業船、奥:警戒船

河川の河口部や、観光船や浚渫船などの往来が激しい場合、潜水目視点検時に、警戒船を配備する場合があります。
警戒船とは、潜水士が水中で作業する間に、その周囲を他船が往来・停泊することにより、潜水士が船のスクリューなどで怪我をしないように、他船を見張って退ける役割をします。

このようにして、潜水士の安全は保たれています。
警戒船の要否は、発注者や観光船などの利害関係者、海上保安庁に確認して決まります。

河川の水中で、変状箇所の撮影中

水中で変状箇所の撮影中

プロ機材(魚眼レンズ付き防水カメラ)で、写真を撮影します。

点検では変状箇所を記した図面と共に、写真が重要な証拠の一つとなり、補修計画を立てていきます。
写真が今ひとつだと、説得力が薄れることになります。

たかが写真撮影、されど写真撮影。
撮影者の力量によって、その成果は大きく異なります。

変状箇所の周辺も理解できるような、写真を撮影できる潜水士。
部分的な変状しか気付かずにアップで写真を撮り、変状が他所に連鎖しているのか、いないのか、想定が付かない成果を上げてくる潜水士。

つまりは、変状の原因を思い浮かべながら写真を撮れるのか、ということになります。

水中の写真撮影では、絶えず水の流れに影響される為、陸上よりも更に難易度が高くなります。
水に逆らう為に下手な泳ぎ方をすると、川底に溜まった堆積物を巻き上げて、まともに見える写真が撮れない、などということもよくあります。

潜水士が使う、水中撮影用デジタルカメラ

水中撮影用カメラ

これが、プロ機材です。

なぜ魚眼レンズなのかと言うと、普通のカメラよりも被写体に近づくことができ、懸濁物質(水中で浮遊するゴミ)を減らした状態で写真を撮影できるからです。
また、水中で使用出来る、強力な水中ライトを装備させています。

特に大阪都市部の河川では、水の濁りにより、川底(河床)方向に5mも潜れば真っ暗になり、ライトで照らした部分しか見えなくなりますので、水中ライトが必要です。
また、カメラに付属しているフラッシュでは、光量が足りないので、まともな写真が撮影出来ません。

こちらのカメラセットは、鮮明な水中写真撮影には欠かせません。


【潜水士の苦労話】

潜水目視点検の準備中

潜水目視点検の準備中

(冬の川の水が冷たい)
特に大阪での河川点検調査は、毎年夏~秋頃から始まります。
河川点検調査では、河川を維持管理しやすい様に区分した測線を、陸上から確認して進める必要があることから、河川点検調査の順番は、陸上調査 ⇒ 船上調査 ⇒ 水中調査となり、水中調査で行う潜水目視点検は、大体冬頃の作業となります。

大阪府下の冬の川の水温は一桁台なので、いくらドライスーツ(潜水士用の体が濡れない潜水服)を着用しても、寒くて大変です。

(水中での位置が分からない)
水中は単純な構造の繰り返しが多く、自身の位置が分かるGPSも使用出来ない為、現在位置がすぐに分からなくなります。
なので、船上調査員と連携して、測線にロープやスタッフを垂らしてもらい、現在位置を確認します。

このように、潜水目視点検を確実に進めるには、潜水士と船上調査員との綿密な連携が不可欠です。

(潜水装備が重たい)
潜水士の装備は、空気ボンベや、鉛で出来た腰ベルトなどを含めて、最大約40kg程度となり、非常に重たく腰にきます。
ここまで重たくする理由は、河川では干潮に向かう下げ潮時の場合や、川幅の狭い箇所において、急流や激流になることがあり、自重を重たくしないと簡単に流されてしまうからです。

潜水士が流されてしまっては潜水目視点検が進まないので、自重を増加させることで対抗します。
また、急流や激流の中では、護岸のコンクリート欠損箇所や突起物、垂れ下がったロープなどにしがみついて耐えることもあります。

 

都市部で潜っていると、「遺体捜索?」とよく聞かれますが、潜水目視点検では、このように調査を進めています。
いつも応援ありがとうございます。

特に大阪では、地元のおっちゃんやおばちゃんに頑張ってな、と言われ励みになります。