底生生物調査の様子(採泥器)

ハンドマッキン採泥器

ハンドマッキン採泥器

これまでに、当社が所有する採泥器として、スミスマッキンタイヤ型採泥器と、エックマンバージ採泥器を紹介しました。
船上から水底の砂や泥を、潜水せずに採取できる便利な機器ですが、それ以外の底質の場所ではうまく採取できません。

泥よりも粒子が細かいシルト状の底質では、採泥器が海底に着いても、バケット部が閉まらず採取できません。
また、砂よりも粒子が粗い礫(れき=小さい石のこと)の底質では、バケット部が閉まる動作中に礫を途中で挟んでしまい、
半開きとなり、その隙間から掴んだ底質が流出してしまうので、採取できません。

調査目的や環境(物理環境、海流など)に応じて、調査機器の選定が非常に重要です。

では、シルト状や礫状の底質である場合、どのようにして採取するのでしょうか?
それは、ハンドマッキンというものを使用します。

ハンドマッキンは、スミスマッキンタイヤ型採泥器のバケット部のみの機材で、潜水士(環境ダイバー)が水中に直接手で持ち込んで使用する採泥器です。
これはスミスマッキンタイヤ型採泥器外側付属のピラミッド状のフレームが無い分、軽いので取扱いが楽です。
携行に便利なハンディタイプであるため、ハンドマッキンと呼ばれています。

【ハンドマッキン使用方法】
①左右の取っ手部を持ち、バケットを広げて、海底に突き刺します。
②突き刺したら、取っ手部を下に押し下げて、バケット部を閉じます。
③機器中央にあるロープを持って、船上へ持ち上げます。

 

潜水士による直接採泥 ~礫質の地盤~

潜水士による直接採泥 ~礫質の地盤~

礫質が堆積している場所は、潮の流れが速いところに多いです。
このような場所で潜水作業を行う時は、作業開始時間のタイミングもしっかり見極めねばなりません。

礫質で使用する場合のコツですが、ハンドマッキンを全開にして、水底にしっかりと押し込みます。
礫質の場合、粒子が粗いので、力を入れて突き刺さないと、バケット部が水底に刺さりません。
しっかり刺さらないと、決まった量(定量)を採取できないので、確実に実施します。

 

潜水士による直接採泥 ~岩礁域~

潜水士による直接採泥 ~岩礁域~

砂がパッチ状(所々)にしか存在しない岩礁域での底質採取にも、ハンドマッキンは活躍します。

船の上から砂があるところが分かって、なおかつ採泥器をその部分にドンピシャに降ろすことができるのであれば、
ハンドマッキンは必要ないですが、これがなかなか難しいんです。

そんな場所では、潜水してハンドマッキンによる直接採泥を行うことがあります。
岩礁のくぼみや岩陰に溜まっている底質を目視で確認し、砂が堆積している場所に、ハンドマッキンを突き刺します。
突き刺すコツは礫質での場合と同様です。しっかりと定量採取できるように心がけます。

 

潜水士による直接採泥 ~砂地~

潜水士による直接採泥 ~砂地~

スミスマッキンタイヤ型採泥器を使用できる砂地でも、ハンドマッキンを使用する場合もあります。

それは、海況や天候などの条件により、作業のスピードが求められる場合になります。
潜水士(環境ダイバー)が自身の手で採泥すれば、別の機材のように失敗して時間を要することなく、最短確実に採泥できますので、
当手法を選択することもあります。

 

採取した泥の例

採取した泥の例

潜水士(環境ダイバー)が採取した底質をバット(専用容器)に出すと、こんな状態になります。
この場所は非常に泥っぽい水域だということがよくわかります。

底生生物調査では、この中にいる生物を取り出して、分析試料とします。
このままでは泥と生物が入り混じっており、分析が非常にし辛いので、篩(ふるい)にかけます。

 

採取した底質をフルイにかける

採取した底質をフルイにかける

木製の丸い枠に、1mmの隙間が開いた鉄の網が張られてあります。これが篩(ふるい)です。

この篩の上に、先ほど採取した底質をひっくり返します。
たらいに貯めた水で篩うと、1mmより細かい粒子の底質や生物が抜け落ちていきます。

 

ふるった後の底質サンプル

ふるった後の底質サンプル

篩い終わった試料です。
白い物体は、クモヒトデの仲間です。

この写真だけでも、ここにはクモヒトデの仲間が大量に生息していることがわかりますね。
当然、その他にも写真では判別できないほど小さな生物がいるので、この残存物を分析室に持ち込みます。

 

定生生物分析試料

定生生物分析試料

分析室では、実体顕微鏡などを使用して、生物の同定・計数作業を行います。

先述したように、底質を篩にかける工程を怠ると、網目を抜け落ちて本来不要な泥分のなかの生物を探し出すことから
始めなければならず、分析室で多大な時間と労力が必要になります。

次の作業工程の事も考えて、効率的に業務を遂行することも、環境調査員として重要なことです。
当社では、これらの小さな事例でも、調査員教育の際に指導を徹底しています。