付着生物調査の様子

日本は海に囲まれた、島国です。

半島、岬、島などにより、地形が多様化しており、陸地の面積に比べて、長い海岸線があります。
その海岸線の長さは、約35,306kmもあり、地球一周の長さ40,077kmの、88%近くにもなります。
国土交通省「平成27年度版 海岸統計(平成27年3月31日現在)」による。

自然海岸の例(自然そのまま、天然の岩場)

人工海岸の例(コンクリートで固められた、漁港の岸壁)

海岸は、以下の4つに区分されます。
①自然海岸:海岸(汀線)が人工によって、改変されないで自然の状態を保持している海岸
②半自然海岸:道路、護岸、消波ブロック等の人工構造物が存在しているが、潮間帯においては自然の状態を保持している海岸
③人工海岸:港湾・埋立・浚渫・干拓等により人工的につくられた海岸
④河口部河川法(河川法適用外の河川も準用)による「河川区域」の最下流端

海岸には、自然や人工、場所に関わらず、多くの動物植物が住んでいます。
その多くは、岩場やコンクリートに付着して、生活しています。
このような生物をまとめて、付着生物と呼びます。

海の生物で、付着する動物や植物と言ってもなじみがないですが、以下は有名なものになります。
・付着動物…貝類(カキ、カメノテ)、フジツボ、サンゴ など
・付着植物…海藻類(ワカメ、コンブ) など

磯を打ち付ける荒波が、付着生物を襲う

海岸は、潮汐(潮の満ち引き)により、水没や干出が繰り返される、生物にとって厳しい環境です。
ですので、海岸に住む付着生物は、夏場の高温冬場の低温長時間の乾燥、速い潮の流れに耐えられる種別しか生き残れません。

付着生物の多くは、一度その場所に付着した後は、自力でほとんど移動することができないので、
その環境に適応した種のみが、生息できるのです。

その種類には色々な特性があり、綺麗な海水(水質)を好む種、濁った海水を好む種、外海を好む種、
湾内を好む種など、様々な付着生物がそれぞれの環境に適応して生活しています。

付着生物調査では、付着生物の種別被度(枠内の面積の割合)、量を調査することにより、
これらの特性を理解した上で、その場所の
環境の状態を知ることが調査の目的です。

※環境の状態…年々海水が汚れてきている、海水温が上昇傾向にある、海水の流れが悪くなってきている など

特定の種の生息の有無によって、その生息域の水質を判定できる生物種を指標生物と呼び、その指標生物のみを調査することもあります。

出典:大阪南港野鳥園 ベントス底生生物概要

潮汐(潮の満ち引き)により、海岸は以下の5つに分類されます。
①潮上帯…満潮時でも海面上にある場所
②高潮帯潮間帯の内、上部の層
③中潮帯潮間帯の内、中部の層
④低潮帯
潮間帯の内、下部の層
⑤潮下帯
…干潮時でも海面下にある場所

※潮間帯…干潮周期によって、水没したり干上がったりする場所

海岸では、潮位の高さによって海水に浸る時間が異なるため、それぞれの環境に応じた様々な生物が住んでいます。
①潮上帯・②高潮帯
海水に浸かったり、波しぶきをうける時間は僅かなので、乾燥や高塩分に強い生物が生活しています。
ですが、他の生物との競争(食う・食われるの関係や、付着する場所をめぐる競争、餌をめぐる競争など)には弱いものが多く、
下部にいくにつれて、姿を消していきます。

③中潮帯・④低潮帯
海水から露出する時間は少なくなり、生物の数も多くなりますが、波浪の影響を強く受けたり、生物同士の競争が激しくなるため、
それぞれの環境に適応した生物を見ることができます。
潮間帯では、このような環境の変化に伴って、狭い帯状に分布している様子が観察されます。

⑤潮下帯
波浪の影響があるものの、常時海水中にあり水深が浅いので、植物が生長するために必要な太陽光が十分に届きますので、
非常に多くの生物を見ることができます。

付着生物の種類は一般的に、潮下帯が一番多く、上部の層になるにつれ、少なくなります。
付着生物は水辺の生き物なので、やはり水が常時ある箇所を一番好みます。

付着生物が帯状に分布する様子

日本海の磯に、付着する生物の例です。
①潮上帯…イワフジツボ、アラレタマキビ
②高潮帯…カメノテ、アマノリ
③中潮帯…アオサ属、カキ
④低潮帯
…イガイ科、イワヒゲ、ヒジキ
⑤潮下帯
…マクサ、イワガキ、ホンダワラやワカメ

陸上での付着生物調査の様子

陸上での付着生物調査の様子(ベルトトランセクト法)

付着生物の観察を行う際には、潮間帯生物分布特性に注意し、潮上帯から潮下帯まで観察できるよう、測線を設定します。
その測線上を、ベルトトランセクト法による目視観察や、坪狩りによる生物採取などを用いて、生物量種類を把握します。

※ベルトトランセクト法
50cm×50cmなどの定型の大きさの方形枠を対象物に置き、その範囲の中に存在する付着生物名を記録し、可能な限り計数、同定を行います。
個体数を計数するのが難しい海藻などの種については、その枠内の面積の割合(被度)を記録します。

水中での付着生物調査の様子

水中での付着生物調査の様子(ベルトトランセクト法)

付着生物は、潮下帯から下部の、水中部にも多く住んでいます。
それらを観察するには、潜水士が潜水して調査する必要があります。

水中では一般の用紙では溶けて記入できませんので、耐水紙という水中でも使用可能な特殊な用紙を使用して、生物種などを鉛筆で記入します。
付着生物の多い箇所では、一度の観察で50種以上発見します。

また、特に海面付近では波浪の影響があり、岩や岸壁に打ち付けられたりしないように、注意して作業を行います。
写真撮影では、広角レンズをつけた、プロ用の水中カメラを使用して、海藻などに出来るだけ接近して撮影します。

接近することで、海水の濁り(懸濁物質)が写真に入りづらくなり、写真が鮮明に撮れます。
↓プロ用水中カメラの説明はこちら

河川点検の様子(水中)

水中での付着生物調査の様子(坪刈り)

50cm×50cmなどの定型の大きさの方形枠を対象物に置き、その範囲の中に存在する付着生物を剥ぎ取って採取することを、坪刈りと言います。
その後、採取した試料を、5%程度の中性ホルマリンで固定して、室内の分析室で付着生物の同定、個体数、湿重量を測定します。

坪刈りでは、観察した範囲の上部・中部・下部に分けて採取するのが一般的で、特に水面や水中では、作業の慣れが必要です。
陸上では、採取する場所の下でネットを構えていれば、そのネットに落下する付着生物を簡単に受けられます。

しかし、水中では浮力や、行き交う潮の流れのせいで、採取した付着生物が流失することがあります。
ですので、潮のタイミングを見計らって付着生物を採取するのに慣れが必要になります。

室内分析では、発見できる生物種が100種を越えることも多くあり、地道で確実な作業が必要です。

このようにして得られたデータを基礎にして、その海域の環境問題の課題を洗い出したり、
どの魚がどの餌を食べているのか調べたり、海岸工事の影響を調べたりするなどの、
環境アセスメントや、環境モニタリングが進められます。

環境を守る為には、色々な仕事がありますね。