現在の日本では、水産動植物にとって産卵・育成の場となる藻場・干潟の減少や磯焼け等により、
水産動植物の生育環境が悪化し、主な水産資源の半数程度が減少しています。
このような状況の中、水産庁では、平成22年から豊かな海を育む総合対策事業を実施しており、
水産資源の増大と、豊かな生態系の維持回復を日本各地で目指しています。
※水産庁HP「豊かな海を育む総合対策事業」 https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_thema/sub4010.html
豊かな海を育む総合対策事業では、水産庁が示した水産環境整備方針(水産生物の生活史に対応した、広域的な整備内容)に則り、
都道府県が、水産環境整備マスタープランを策定し、漁場造成や漁場環境保全を、ハード整備やソフト施策を駆使して、総合的に実施しています。
※ハード整備:藻場造成、魚礁(増殖礁)、産卵礁の設置 など
※ソフト施策:種苗の放流、小型魚の再放流、休漁日の設定、漁具の制限 など
マスタープランは、現在(2020年4月現在)、日本各地の23地区で策定されています。
北は北海道、南は宮崎県まであり、そのプランに基づいて様々な事業や、生息環境のモニタリングが展開されています。
※マスタープラン第1号:(平成23年8月)兵庫県、岡山県、香川県の3県共同「播磨灘地区水産環境整備マスタープラン」
策定されるマスタープランでは、増加させたい対象種や指標種を選定して、その生活史(どこで産卵して、住み付き、成長して、何を食べるか など)を調査して、環境整備を行います。
有名な指標種では、愛媛県のマダイ、山口県のキジハタ(アコウ)、北海道のソイ類、秋田県のハタハタ などがあり、各地域で有名な、漁師が漁業生物として採捕・販売できる種別が選定されます。
調査やモニタリングでは、海域環境基礎調査、餌料環境調査、生息状況調査 などを実施して、その結果から計画を策定したり、見直したりする材料にします。
以下に、その一般的な調査方法をまとめましたので、ご案内します。
【海域環境基礎調査】
主に水質や底質を調査することにより、その海域の環境特性が対象種や指標種にとって、産卵・育成に適した環境であるか評価、検証します。
また、継続的にモニタリングを行う事で、気候変動による環境変化についてのデータを、蓄積します。
魚は水温の変化のみでも住処を変え、大きく移動しますので、周囲の環境を知ることは重要です。
①水質調査
<目的と内容>
対象種・指標種の飼料環境調査、成育状況調査を評価、検証する為の基礎項目を測定します。
測定する水深は現場によってまちまちですが、測定ピッチを細かく取って、水面から海底まで記録を行うことがほとんどです。
貧酸素水塊の発生が懸念される海域では採水し、溶存酸素量(DO)を測定します。
<使用機器>
クロロフィルセンサー付STD、採水器
<調査項目>
深度毎の水温、塩分、クロロフィルa
②底質調査
<目的と内容>
対象種・指標種の飼料環境調査、成育状況調査を評価、検証する為の基礎項目を測定します。
現地で採取した試料を冷暗所(クーラーボックスなど)に保存し持ち帰り、室内分析を行います。
<使用機器>
採泥器(スミス・マッキンタイヤ型、エクマンバージ型 など)
<調査項目>
粒度分布、科学的酸素要求量(COD)
③流況調査
<目的と内容> ※魚礁を設置する場合
魚礁の設置前後で、魚礁が海水の流れに与える影響についての基礎データを取得します。
<使用機器>
2軸電磁流向流速計、多層式超音波ドップラー流向流速計(ADCP)
<調査項目>
海水の流向・流速
【餌料環境調査】
対象種・指標種が、餌として利用する生物について調査します。
対象種・指標種の餌となる生物を調べることによって、調査海域全体の生態系や食物連鎖の関係を知ることができ、
どの生物を増殖させれば良いかなどの、より効果的な対策事業を行うために、欠かすことのできない調査です。
①植物プランクトン調査
<目的と内容>
対象種・指標種の飼料環境調査、成育状況調査を評価、検証する為の基礎項目として直物プランクトン量を把握します。
また、室内にて顕微鏡下で観察を行う場合もあります。
※植物プランクトンは太陽光にて光合成を行い、増殖していきますので、採取試料を暗所に置くなどの取り扱いには注意が必要です。
<使用機器>
クロロフィルセンサー付STD、採水器
<調査項目>
クロロフィルa量、植物プランクトンの種、沈殿量
②動物プランクトン調査
<目的と内容>
対象種・指標種の飼料となる、動物プランクトンや魚類卵稚仔魚の種類・量を把握します。
<使用機器>
プランクトンネット、採水器
<調査項目>
動物プランクトン・魚類卵稚仔魚の種、沈殿量
③底生生物調査
<目的と内容>
対象種・指標種の餌となる底生生物(ベントス)の種、量を把握します。
<使用機器>
スミスマッキンタイヤ型採泥器など
※現場の底質環境によって、適した採泥器を選定します。
<調査項目>
底生生物の種、量
④付着生物調査
<目的と内容>
対象種・指標種の餌となる、魚礁などに付着する生物の種、量を把握します。
<使用機器>
浅い海域(水深約30mまで)・・・潜水による採取
深い海域(水深約30m以上)・・・ROV(水中ロボット)による撮影画像の解析
<調査項目>
付着生物の種、量
【生息状況調査】
対象種・指標種が、どのような環境で生息しているか調査します。
調査海域で産卵が行われているか、稚仔魚が生育できる環境にあるのか、何を食べ、季節毎に成長しているのか、
などを把握して、対象種・指標種の行動パターンを探ります。
海域全体の生産力の底上げを目指す為に必要な、大事な調査です。
①稚仔魚(底層上部)調査
<目的と内容>
対象種・指標種の飼料となる小型魚類や魚類稚魚、卵を採集し、種、量を把握します。
また、対象種・指標種の卵稚仔魚を採取し、調査海域で、産卵が行われているのか、稚仔魚が生育しているのかどうか調べます。
<使用機器>
マルチネット
<調査項目>
魚卵・稚仔魚の種類、量
②稚仔魚(底層)調査
<目的と内容>
対象種・指標種の飼料となる小型魚類や魚類稚魚を採集し、種、量を把握します。
また、対象種・指標種の稚仔魚、未成魚を採取し、調査海域で、稚仔魚が生育しているのかどうか調べます。
特に、カレイやヒラメのように底生生活をおくる種が、対象の場合に行われます。
<使用機器>
ソリネット
<調査項目>
稚仔魚の種、量
③目視調査
<目的と内容>
対象種・指標種を含めた、その海域で生活している魚介類の状況を目視により把握します。
<使用機器>
浅い海域(水深約30mまで)・・・潜水による目視観察、撮影
深い海域(水深約30m以上)・・・ROV(水中ロボット)による撮影画像の解析
<調査項目>
魚介類の種、量
④漁獲調査
<目的と内容>
魚礁や増殖礁などに集まる魚類などの対象種・指標種を刺し網や釣りで漁獲し、それらの種、量や体長の測定をし、
季節別の体重変化などを考察します。また、採取した魚類などの胃内容物の種、量を把握し、
飼料生物と対象種・指標種との関連を考察します。
<使用機器>
各種魚網、釣竿
※対象種・指標種の特性、その海域の特性に併せて選択します。
<調査項目>
魚介類の種、量、胃内容物など